木材の収縮・膨潤と含水率

木工のあれこれ

木製家具を買いに行くと、販売員さんから『木は生きているから動く』と説明されたりしないでしょうか?
ただこの『生きている』は、家具が急に「ちょっとトイレ行ってくるわ」としゃべって、トイレに向かうことはありません。
これは木の収縮・膨潤の動きのことを言っているのです。

この動きは木工作品を設計する上でとても大事で、木工に携わる人には必須知識です。
今回は、収縮・膨潤についてプロなら最低限知っておくべきだと思うことをお話ししたいと思います。

収縮・膨潤する理由

木材には水分を吸収したり、放出したりする性質があります。
この水分の変化により木材の収縮・膨潤が起こります。

木材は、切り倒した直後には多量の水分を含んでおり、木材を切った数日~数ヶ月で急激に含水率が下がります。


この一時的に落ち着いた時の含水率はだいたい30~35%程だと言われています。
70%もの変化が起きているのですが、この変化では木材の収縮はほぼ起きていません。
30%以下の含水率の変化。
この変化が主に収縮・膨潤を引き起こします。

ここで大事なのは、含水率30%以上で放出する水分と30%以下で放出する水分は別物ということです。

自由水と結合水

木材の水分には、細胞の中や細胞同士の間に存在する『自由水』と細胞壁の中に存在する『結合水』があります。
生材はまず自由水が放出され、その後結合水の放出が始まります。
詳しくは下の図の通りです。

結合水の変化が細胞壁の厚さを変化させて、木材の寸法を変化させているのです。

気乾含水率

木材を大気中に放置しておけば、含水率0%までいくというわけではなく、大気の条件と釣り合うような含水率に定まります。


この大気中での含水率を『気乾含水率』と言います。
日本では、気乾含水率はおおむね10~18%の間を変動して15%を標準含水率としています。
ちなみに、欧米では12%を標準含水率としている所が多いそうです。

基本方向の収縮率

収縮にも板目(接線)方向、柾目(放射)方向、長さ(軸)方向の基本方向があり、おおむね

板目:柾目:長さ=20:10:1

となります。
このことより、建具職人が柾目を好む理由が分かりますね。
板目は柾目より2倍の収縮が起こります。
つまり、板目材の扉だと開かなくなる可能性が高くなりのです。

このように木材は、方向で収縮率・膨潤率が異なるため反り・ねじれ等の狂いを引き起こします。

寸法変化

製品が完成した後にも、大気と接触し続ける限りは寸法変化し続けます。


そのため、作った製品を長く使ってもらおうと考えるなら、寸法がどの様に変化するか見極める必要があるのです。
特に家具製作においては、引出しの前板や側板のはめ合いには注意が必要です。

推定の寸法変化を求めたい場合は、数式やグラフを使用して求めます。

数式と聞くと学生の頃の嫌な記憶が蘇ってくるんじゃないでしょうか?
安心してください。ただの掛け算ですよ。
ということで、単純です。
ハンドブック等の書籍に載っている樹種の平均収縮率に想定される含水率の差と寸法幅をかけてあげればいいのです。

寸法変化の例題と活用方法

例題:ケヤキを板目取りの板材で、幅50mmで含水率が10%から20%になった時の寸法変化はどれくらい起こるでしょうか?

この時調べないといけないのは、板目の平均収縮率です。
ハンドブックで調べると、0.28%となっています。
含水率差は10%から20%になったので、10%(20-10)となります。
これで必要な情報は揃いました。
あとはこの2つをかけてあげればいいです。

0.28×10/100×50=1.4mm

となり、1.4mmの寸法変化が起こります。

実際これで引出しの側板を作ろうと思ったら、1mm以上の隙間を作っておく必要があります。

寸法変化の目安

ちなみに、例題まで出しておきながら私自身は設計する度に計算するということはありませんでした。
寸法変化を全く無視していたということではなく、経験則から得た目安の寸法変化を意識して設計を行います。
多くのプロ職人の方もそうなんじゃないでしょうか?

経験則と言われると木工素人を突き放している感じになってしまうので、参考に私の修業していた工房での目安を。
私の工房では、1%の寸法変化で見ていました。
周りの木工家に聞く感じだと、他の工房でも1%の寸法変化を目安としているところが多そうな感じがします。
ただ、1%見ても引出しが開かなくなるクレームは入る時は入ります。

私的には、作る時期(梅雨時期や乾燥期)によって

含水率差6%=18%-12%
平均収縮率=0.35%
6×0.35≒2%

で、2%くらい見てもいいんじゃないかと思ってます。
実際論文を漁ってみると、

さらに厚い5cmの板や角材では,昼夜の湿度変化や,数日周期の気象の変動の影響を受けることは少ないが,年間を通じてみれば,春先の空気が乾いた季節と梅雨のように空気が湿った季節では,寸法が1~2%程度変ることがある。

引用|佐道健 『木材保存Vol.22-2 水分変化による木材の寸法と形状の変化』 1996 年 P.5(77)~6(78)

とあります。
まあ一番正しいのは計算して出すことですので、この数値は目安として使うのがいいと思います。
ただし寸法変化値に重きを置きすぎて、隙間が空きすぎるのも作品としてみっともないです。

何が言いたいかと言うと、『寸法変化値を鵜吞みにして作ってはいけない』と言うことです。

今までの話を根底から崩しそうな言葉ですが、家具は見た目が重要視されるものです。
見た目が悪いものに、お客さんはお金を出して買ってくれません。
そのため、寸法変化と見た目の塩梅を探って設計する必要があるのです。

まとめ

今回は、家具を設計する上で絶対に知っていた方がいい話となりました。
最近はここまで考える職人は少なくなってきていると聞きます。
結局は自分がどんなクオリティの作品を作りたいかなんでしょう。
稚拙な文章でしたが、この記事がみなさんの作品づくりの一助になればという思いです。

出典・参考・引用

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 基盤整備センター『職業訓練教材 木工材料』(改定3版6刷) 一般社団法人 雇用問題研究会 2017年

佐道健 『木材保存Vol.22-2 水分変化による木材の寸法と形状の変化』 1996 年
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwpa1975/22/2/22_2_74/_article/-char/ja/

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