漆についてあれこれ

木工のあれこれ

漆は強く美しい色艶であるため、古くは装身具や武具を装飾するのに使われていました。
そして漆工技術の向上と共に、蒔絵の漆器がジャパンと呼ばれるまで地位を確立させていきました。
そんな日本人と関わりの深い漆。
今回は漆についてお話ししたいと思います。

漆とは?

ウルシノキの樹液のことを『漆』と言います。
日本は古来より、この樹液を塗料や接着剤として活用してきました。

ウルシノキ

ウルシ科植物は、世界中に400種類以上いると言われていますが、幹を傷つけて樹液が染み出してくるものは8種類しかいません。
日本にはその内の6種類が分布しています。
その6種類は、ハゼノキ、ヤマハゼノキ、ヌルデ、ヤマウルシ、ツタウルシ、ウルシノキです。
しかし、漆器に利用できるのは「ウルシノキ」の1種類のみなのです。

そしてこの樹液の採取が行われているのは、日本国内でも岩手県、茨城県などに限られているのです。

その他のウルシ科

ウルシ科で一般によく知られているのは、マンゴーやカシューの木です。
カシューとは、カシューナッツのなる木ですね。

このカシューの実の殻から精製されるカシューオイルはヨーロッパではよく使われることからご存知の方も多いでしょう。
また日本では、戦後中国から漆が輸入できなくなり、代用の塗料として使用され始めました。
漆よりも扱いが容易で、DIY好きの方だとホームセンターの塗料コーナーでもよく見かけるんじゃないでしょうか?

樹液の採取方法

樹液の採取方法には2種類あり、「養生掻き」と「殺し掻き」と呼ばれています。
養生掻きは、傷を7~8本つけたら終了するやり方で、殺し掻きはウルシノキの活動が止まるまで掻く方法です。
現在は「殺し掻き」が主流となっています。

また、採取時期によって漆の品質は変わってきて、8月2週目からの10日程は最上質の漆が取れます。

漆の精製

ウルシノキから採取した樹液のことを「あらみ」と呼びます。
これらを濾過して不純物を取り除いたものが、「生漆(きうるし)」となります。
生漆の一級品は美術工芸品や高級漆器の下地や艶上げの摺り漆に使用され、二級品は拭き漆、防腐・防錆・接着用に使用されています。

またその生漆を天日や炭火で水分を蒸発させながら撹拌し、飴色半透明で光沢のある「透漆(すきうるし)」にしたものが漆芸に使用されます。
透漆に色を配合したものを、「色漆」、「黒漆」と言います。

漆の魅力

漆には様々な魅力があります。

色艶

漆黒と言う言葉からも、漆の黒色は他にはない色であると思います。
中世のヨーロッパでは、工芸品や家具の塗料で黒色が出せず、日本の漆の黒色を求めて高価な家具を作らせていたほどでした。
また漆の光沢も製品の上品さを引き立てます。

保護機能が高い

乾いた漆は、濃硫酸や濃塩酸につけても問題がないほど保護力に優れています。

耐水性もある

勘違いされる方が多いのですが、漆は水には弱くありません。
実際、和竿の塗料に耐水の観点から漆が使われているのを見たことがあります。

食べ物がおいしそうに見える

漆器でご飯を盛り付けるとおいしそうに見えます。
味覚は視覚も影響しているんでしょうね。

補修できる

ひび割れ等の破損しても直すことができます。
長年使っていくことができるので、愛着がわき丁寧に物を扱えるようになります。

また、漆自体も接着剤としても使われています。

日本産の漆は香りが良い

昔から漆器は、食器や香合、香炉、茶入れ等々のほのかな香りを味わうものとして利用されてきました。
この良い香りがあってこそなのでしょう。

紫外線には弱い

紫外線に当たると劣化が早くなります。
しかし、紫外線の当たらない地中に埋まっていれば千年でも腐らずに残ります。
埋めておけば、千年後の未来に文献として発掘されるかもしれませんね。

中国産の漆

現在の日本で使われている生漆の99 %が輸入漆となっております。
その中でも中国産の漆はよく使われています。
では、中国産と日本産の漆の違いは何なのでしょうか?

この違いは香りです。
中国産の生漆は悪臭と言いたくなる臭気を発するそうです。
この違いの原因は諸説ありますが、採取の際に雨等の不純物が入ってしまうためと考えられている。
そのため、日本産であっても悪臭を放つものがあるそうです。
消費者に届くまでにはある程度臭いは消えていますが、職人さんは仕事中地獄でしょうね(笑)

まとめ

今回は漆についてお話ししました。
最近は漆の類似品も多く出てきており、本漆の漆器を手に取ることも少なくなってきているでしょう。
しかし、日本人の遺伝子に組み込まれているのか、やはり実際に見てみると惹かれるものがあります。
お酒好きの方はきっと日本酒を飲みたくなるでしょう。

漆製品は実際に見た時に五感をくすぐってきます。
個展等に遭遇した際には、ぜひ本物の本漆に触れて、五感で楽しんでみてください。

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参考・引用文献

・林野庁 『漆のはなし』 https://www.rinya.maff.go.jp/j/tokuyou/urusi/ (2021.5.29)

・中村宗哲 『漆の美 中村宗哲家の歴代 意を匠み、技を重ねる』 株式会社淡交社 2003年10月

・室瀬和美 『受け継がれる日本の美 漆の文化』 株式会社角川書店 2002年8月

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