接着剤が着く理由

木工のあれこれ

物と物とを接着する接着剤。
実はこのメカニズムは完全には解明されていません。
「えっ?理論もわかっていないものを使っていたの??」

と疑問に思うかもしれませんが、そういうわけではなく、

『接着に関わる現象をすべて統一的に説明できる理論は存在しない

ということです。

どういうことかと言うと、接着する物質、環境によって接着要因や効き方が全く変わってくるということです。
つまり接着は、様々な提唱されている説の中でどれが支配的であるのかを推測することしかできないのです。

特に木質材料の接着は、木材が組織学的に複雑な天然高分子物質であるので実験的に証明することが難しくどの説が支配的であるかもわかっていません。

そこで今回は、現在木質材料の接着において提唱されている説や木質材料接着の際の注意点についてお話していきたいと思います。

提唱されている説

現在提唱されている説は3つあります。
それは、『機械的接着』、『物理的接着』、『化学的接着』の3つです。
では、それぞれについて簡単に見ていきましょう。

機械的接着

機械的接着とは、接着剤が木材組織にある多くの空隙の中に流れ込んで固まり、接着面が投びょう作用によって接着が行われるという説です。

筆者は訓練校時代にこの説が一番優勢とされていると習いました。
ただ、接着面って平滑であればあるほど接着力が強くなります。
そのため、接ぎ合わせする時は接着面を整えてあげる必要があるわけです。
そう考えると、要因の1つではあるがこの説がメインの力になるのかなと私は思っていますが。。。

物理的接着

接着剤が木材の間で薄い層を作り、接着剤の分子と木材の分子の間に強い引力(分子間力)が働いて接着されるという説です。

化学的接着

接着剤と木材との間に化学的な結合が行われて接着されるという説です。
この力は分子間力よりもはるかに強い結合です。

と、これら3つの説が提唱されており、現在も研究は進められています。

接着力をあげるには

今までは接着の理論についてみてきました。
しかし私たち木工をやる側の人間からすると、接着のメカニズムを解明することより、より高い接着力で接着するためにはどうすればいいかの方が大事です。

そこで、高い接着力を出すための条件を見ていきましょう。

接着層

接着層は薄くなると剥離や衝撃に弱くなり、逆に接着層が厚くなるとせん断や引張に弱くなってしまいます。
そのため接着剤をつける際は、薄すぎず厚すぎない接着層を均一に広げる必要があります。
また、一般的に接着層の厚さは0.1mm程度が望ましいとされています。

木材の種類

木材の接着力は比重の増加に比例して増加します。
そのため一般的には『広葉樹>針葉樹』となります。

ただし例外として比重が高い樹種であっても、含有する抽出成分が多いものは接着力が低い傾向にあります。

木材の含水率

皆さんがよくご存じな木工用ボンド等の酢ビは、その水分が木材中に吸収されることによって硬化して接着します。
そのため、木材の含水率が接着力に影響を及ぼしてきます。
一般的に、木材の含水率が5~15%の時が最も接着力を得られると言われています。

材面

一般的に木材の表面が平滑であるほど高い接着力を得られます。
そのため接着の良好さは、手かんな面>機械かんな面>のこぎりによる切削面となります。
また、接着剤と木材の接触面積が大きいほど接着強度は上昇します。

木口接着

木工において木口同士の接着は接着できないと認識してもらってかまいません。
木口に接着剤を塗っても導管により吸い込まれてしまうからですね。
そのため、木口同士の接着にならないように加工を考えましょう。
ただし、留め加工等のどうしても木口同士になる時は様々な工夫をします。

実(さね)を入れてみたりだとか、筆者はやったことがないのですが接着剤に小麦粉を混ぜて使ったりなんて方法があります。

あと筆者はどうしても木口同士の接着をする時は、粘度が高くすぐ硬化する接着剤を使用します。
そうすることによって、導管に吸収されることなく接着できるからです。
一応参考に、筆者が木口用に使っている接着剤を載せておきます。

気温

接着剤には使用温度があります。
そのため、接着する時の気温は十分に気にする必要があります。

例えば、素人からプロまで使うタイトボンドⅢは使用温度が8.3度以上です。
したがってこれ以下の気温で使用すると十分な接着力を得られず、接着不良が起こります。
冬場は十分注意した方がいいでしょう。

圧締

接着では、接着される2つの材面をできる限り密接させることは基本です。
そのため、圧締器具等を使用して接着します。


以上が接着力を高める基本的なポイントです。
接着する際は、これらを意識するとより良いものが作れるかもしれませんね。

まとめ

・接着層は均一で、厚さ0.1mm。
・接着力は一般的に広葉樹>針葉樹となる。
・含水率が5~15%の時に最も接着力を得られる。
・木材表面が平滑なほどよく接着する。
・接着剤と木材の接触面積が大きいほど接着強度が上昇する。
・木口同士の接着はタブー。
・冬場の気温は気をつける。
・圧締器具等を使用して接着する。

出典・参考・引用

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 基盤整備センター『職業訓練教材 木工材料』(改定3版6刷) 一般社団法人 雇用問題研究会 2017年

『接着の原理』 株式会社オーシカ http://www.oshika.co.jp/adhesive_knowhow/knowhow001.html 2022.3.21アクセス

辻和一郎 『接着理論 関西支部ゴム技術講習会より(その3)』 日本ゴム協会誌 1956年第29巻 第7号 https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu1944/29/7/29_556/_article/-char/ja

清水義憲 『接着という現象の理解のために』 エレクトロニクス実装学会誌 1998 年 1 巻 6 号 p. 500-508 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jiep1998/1/6/1_6_500/_article/-char/ja

原賀 康介 『接着の基礎知識7 接着部品の構造設計』 株式会社イプロス Tech Note編集部 2018年1月24日 https://www.ipros.jp/technote/basic-adhesive7/

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