鉋の刃の青紙・白紙・ハイス鋼とは

木工のあれこれ

鉋を選んでいると、この刃は青紙やら白紙やらとの言葉が出てきます。
これはいったいどういう意味なのでしょうか?
そこで今回は、青紙・白紙・ハイス鋼について簡単に説明していこうと思います。

鉋の刃について

鉋の刃は、地金(軟鉄)と炭素鋼の硬い鋼の2種類を鍛接し、1枚の刃となっています。

簡単に説明すると、いわゆる切る部分の刃先に鋼がついており、それを補強する形で地金がついています。

2種類使っている理由は、刃を研ぎやすく、粘りのある刃物にするためです。
鉋の刃や包丁を研いだことがある方はご存じかもしれませんが、鋼って研ぐの大変なんですよ。
つまり、硬い鋼の量が増えれば増えるほど研ぐ時間がかかってしまいます。
そのため、軟鉄を混ぜて研ぎやすくしているのですね。
また、軟鉄は粘性のある鉄なので軟鉄を使用することにより、粘りのある強い刃物になるのです。

鋼について

青紙等の話に入る前に、鋼が何なのか簡単に説明したいと思います。

鋼とは、鉄に炭素を加えた合金のことを言います。

炭素とは鉛筆の芯やダイヤモンドになることで有名な原子ですね。

この炭素の含有量の違いで、軟鉄のような柔らかくて靭性、展延性が高い、純鉄に近い性質の鉄にもなったり、硬度のある鋼になったりします。

また、鉄は溶鉱炉から出てきた時点で何らかの炭素その他の不純物を含有しています。
そのため、純鉄はなかなかお目にかかれることはなく、皆さんが普段鉄だと思っているものはほとんどが『鋼』なのです。

青紙・白紙とは

刃物に使用されている鋼には、青紙・白紙など名前が付いています。
これらは、安来鋼(ヤスキハガネ)の一種なんです。
安来鋼の青紙シリーズ、白紙シリーズと考えてもらえばわかりやすいかもですね。

ちなみに安来鋼とは、日立金属株式会社の島根県にある安来工場で生産された鋼のことです。
鳥根県の出雲地方は、真砂と呼ばれる純度の高い砂鉄が豊富にあるとともに、製鉄に必要な木炭の供給源となる森林資源が豊富にあったため、鋼の製鉄所として最適だったのでしょう。

そしてそれぞれの名称の由来は、使用する材料の色とかが関係しているのでなく、同じサイズに仕上げられた製品を、どの鋼か簡単に見分けられるように、目印として色紙を貼りつけていたことによるのです。

このシリーズの特徴はと言うと、青紙は白紙にタングステンやクロムを添加して永切れするようになっています。
その分価格は、白紙よりも一般的に20~50%高くなります。

出典:日立金属株式会社 「YSS高級刃物鋼」 p.5

なんかこれだけ聞くと、青紙は白紙の進化系でいいもののように感じますよね。
しかしここが刃物の難しいところです。
白紙の方が優れた部分もまたあるのです。

白紙と青紙の特性を簡単に比較してみました。

青紙 VS 白紙
 欠けにくさ(粘り強さ) 青<白
 研ぎ上がりの鋭利さ 青<白
研ぎやすさ青<白
永切れ青>白
耐久性青>白
耐蝕性 青>白
価格青>白
適材青:柔木~堅木
 白:柔木~中堅木 

一般的に言われているいい刃の特徴は、

切れて、粘りがあって、永切れし、研ぎやすくて、錆びない

です。

しかし表を見てもらうと、すべてで優勢に立っている刃はありません。
残念ながらこれらの特性は、それぞれ相反するものなんですよね。
ある特性を伸ばすと、どこかが劣ってしまうのです。

またこれらの特性は、鍛冶職人の腕一つにより大きく変化します。
つまり、厳密には誰が作ったかもいい刃の要素に加える必要が出てくるのです。

以上より、一概には青紙の方が良い刃であるとの断定できないのです。
実際、鋼の研究者の中には、青紙よりも白紙の方が切れ味がいいと言及している人もいるのです。

ハイス鋼(高速度鋼)

青紙・白紙の他にハイス鋼という言葉も聞くんじゃないでしょうか?

ハイス鋼とは高速度鋼のことです。
ただ、大半の方が「高速度鋼です。」と言われても理解できていないと思います。
ハイス鋼とは、高速で切削する工具の材料に使われる非常に硬い鉄鋼材料です。
ドリルの刃なんかがそうですね。

成分構成は、鋼にクロム、タングステン、モリブデン、バナジウムといった金属成分を多量に添加したものになります。

ちなみに、クロムの含有量が多いほど錆びにくくなり、11%以上のクロムを含む鋼が皆さんがよくご存じな『ステンレス』となります。
ハイス鋼にはクロムが20%も含まれているので、ステンレスとなりますね。

ハイス鋼の特徴として、硬度と耐摩耗性は高いのですが、耐蝕性や欠けサビに弱いです。
また、刃物鋼材としては密度に欠けるため使用されてきませんでした。
しかし、粉末製法での製造が可能になったことにより、近年見られるようになってきました。
これらのハイス鋼は『粉末高速度鋼』と呼ばれています。

ちなみに筆者も粉末高速度鋼の鉋を持っています。

鉋の刃にちゃんと「粉末高速度鋼」と打ってありますね。

他の鉋と違って、かなり永切れしますね。
仕事内容によっては、3~4ヶ月の間1回も研がずに使っていることもありましたね。(使っている砥石も関係しているとは思いますが)
その代わり刃が硬いので、研ぐ時は少し時間がかかりますね。

まとめ

刃物は難しいもので、値段が高いからいい刃ものであるとは言えません。
自身との相性や自分が何を一番に重きを置く特性かをしっかりと考えたうえで選ばないといけません。

筆者は、中古の工具屋で買った500円の鉋も普通に現役で使っています。
中古なら1000円以内で鉋がいっぱい売っています。
見た目はボロボロですが、使える鉋はたくさん眠っているのです。
はじめは中古の工具を色々使ってみて、そこから何が自分に合うのか決めていくのもありかもしれませんね。

出典・参考・引用

独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 基盤整備センター 『木工工作法』(7刷) 一般財団法人 職業訓練教材研究所 2013年

『究極の包丁ー最高に切れる刃物(鋼材)』 手前板前 https://temaeitamae.jp/top/t4/01.html 2022.1.1アクセス

『ハガネの神話』 木のメモ帳 https://kinomemocho.com/hamono_hagane.html 2021.1.1アクセス

『鋼のお話』 ほんまもんRAKUTEN店 https://www.rakuten.ne.jp/gold/honmamon-r/faq/hagane_01.html 2022.1.1アクセス

『刃物鋼材』 ジャポニカ刃物 https://www.japonika.fr/index.php?main_page=page&id=3&chapter=0&language=ja  2021.1.1アクセス

『かんな解体新書 ~鋼(はがね)~』 株式会社常三郎 https://www.tsune36.co.jp/kanna_kaitai_shinsho/page_001/  2022.1.1アクセス

『粉末ハイス鋼とは?そもそもハイス鋼ってどういう金属ですか』 大野精工株式会社 https://www.kikaibuhin-vave.com/qa/%E7%B2%89%E6%9C%AB%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%B9%E9%8B%BC%E3%81%A8%E3%81%AF%E3%80%80%E3%81%9D%E3%82%82%E3%81%9D%E3%82%82%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%82%B9%E9%8B%BC%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%A9%E3%81%86%E3%81%84/ 2022.1.1アクセス

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